IMFとは?
IMF (Interoperable Master Formatの略 = 相互運用可能なマスターフォーマット)はファイルベースのメディアフォーマットで、複数の国やテリトリーその他プラットフォームでの使用を見込んで制作された映像音声コンテンツのデリバリーや保管を簡易化するフォーマットです。
IMFは長編映画、シリーズ作品、広告、短編コンテンツなどのあらゆる完成した映像音声コンテンツの運用が可能です。IMF は国際的に認められているSMPTEの標準規格で、規格の拡張が可能であり、実績のある技術を使用しており、 オープソースソフトウェア(OSS)や商業化されたソフトウェアも数多く存在します。
なぜIMFなのか?
現在、映像音声コンテンツは日常的に様々なバージョンで提供されていますが、それぞれのバージョンが以下のような情報を含んでいます。
- ライセンス先の国特有の検閲などのガイドラインに準ずるための編集バージョン
- 多言語吹替えバージョン
- 多言語や障碍者向けの字幕やキャプションバージョン
- 4K, HDRや立体音響などの技術スペック
- 過去のバージョンからの修正バージョン
このような膨大な数のバージョンが存在する中、それぞれのバージョンを、個別のリニア映像音声マスターとして(例えば、複数をまとめたQuick Timeファイルやテープなど)提供するという従来のやり方では効率的に対応することができません。
IMFの仕組みとは?
IMFのフォーマットでは,一つの 映像音声コンテンツのマスターは、以下のイラストにあるように、要素ごとのファイルに分かれています。
図にある各々のトラックファイルは映像音声コンテンツの1種類の情報のみを含んでいます。例えば、一番目のトラックファイルはオリジナルの画像のみ、二番目のトラックファイルはフランス語音声、三番目のトラックファイルは英語のキャプションといった感じです。トラックファイルはMXFファイル形式の簡略化したフォーマットを使用しています。
Composition Playlist (コンポジションプレイリスト)が、これらのトラックファイルを時間軸上に並べタイムラインに関連するメタデータと統合します。コンポジションプレイリストはXMLファイルです。
コンポジションプレイリストとそれが参照するトラックファイルの組み合わせを”コンポジション”と呼び、単一の映像音声コンテンツに対応します。
このようにコンポーネントをベースにしたアプローチの主な利点は、特定のトラックファイルを一つの作品の複数バージョンで再利用できるため、複数バージョンのマスタリング、デリバリー、ストレージ保管コスト、QC作業など様々な面で削減を実現することができます。
IMFのサンプル利用事例は?
- インクリメンタル(増加式)デリバリー:フランス語の映像と音声を含むマスター素材がまず最初にデリバリーします。その後、米国英語版のマスターが完成し、その結果、ある映像シーンが削除されと英語音声が追加された。このような場合、 IMFを使えば、ポジションプレイリストと英語音声の少量のファイルをデリバリーすることで作業は完了し、QCの必要性や、大きなファイル量のビデオの再送を避けることができます。
- 多言語素材のデリバリー: 複数言語の吹替えバージョンと字幕バージョンが存在するマスターの場合。さらに同マスターはマルチチャンネルバージョンとステレオバージョンも存在する。IMFを使うことによって、デリバリーは一つの映像ファイルと複数言語の吹替え音声と字幕データを送ることで完了します。
- アーカイブ(保管) : IMFは、これまで補足的に保管していたDPXファイルやTIFF映像ファイルや、WAV音声ファイルなどの過去のマスターを置き換える保管用フォーマットとしても利用できます。IMFを使うことによって、映像と音声が完璧にシンクロしたアセットの保存が可能で、メタデータも常時、追加可能です。 IMF は実績のある標準規格の技術を利用し、広範囲にわたり文書化されており、複数の実装が行われています。IMFを使うことにより、従来の独自の保管体制やその場凌ぎの保管方法に頼ることなく、マスター素材を保管することが可能になります。
IMFがサポートする映像音声規格とは?
IMF は以下を含む多岐にわたる映像音声規格をサポートしています:
- 画像: 4K, ロッシー(非可逆)圧縮、ロスレス(可逆)圧縮、 HDR、広色域、立体3Dなど。
- 音声: 24ビット 48 kHz チャンネル毎の音声ファイル、立体サウンドなど。
- タイムコード入りテキスト:世界中の言語の字幕やキャプション(ユニコード、左書き、右書きおよび縦字幕、日本語字幕特有のルビ、傍点、斜体、縦中横など、HDRビデオ、立体3Dなどもサポート)
IMFのコア制約、アプリケーション、プラグインは?
IMFはSMPTEが管理する標準規格系列の ST 2067グループの中に定義されています。
IMF は一連のコア制約内に含まれており、全てのIMFの実装は、その制約内で動作するようになっています。それに追加して、特定の利用を目的にしたいくつかのアプリケーション、そして、複数のアプリケーションに使用できるようオプションとしてプラグインが含まれています。
コア制約の主な目的は、IMFの大部分の標準機能を表し、最小限のバリエーションでアプリケーションとプラグインのオプションを提供するためです。今のところ、アプリケーションの主な違いは映像コーデックの選択肢くらいです。
コア制約は SMPTE ST 2067-2 (コア制約)に詳しく定義されています。 アプリケーションの例としては、 SMPTE ST 2067-21に定義されているマスター用のApplication #2Eがあります。プラグインの例としては立体サウンドをサポートするSMPTE ST 2067-201 に定義されている没入型オーディオ、Bitstream Level 0 プラグインがあります。
IMFは拡張可能?
IMF は、容易に新しい映像音声規格やメタデータを拡張可能で、標準規格の拡張やユーザー特有の拡張にも対応できます。実際、SMPTEは新規の利用事例や不具合の修復対応のために常にIMFに関わる標準規格の更新を行なっています。業界コミュニティからの貢献や参加も奨励されています。
IMFの現在のアプリケーションは?
- Application #2E (SMPTE ST 2067-21). 長編やシリーズなどのコンテンツのマスター用。SDのSDR から 4K (4096×3112) HDRまで、 JPEG 2000圧縮技術を使った非可逆及びロスレス。
- Application #3 (SMPTE ST 2067-30). MPEG 4 スタジオプロフィールを使った非可逆圧縮。
- Application #4 (SMPTE ST 2067-40). D-Cinema コンテンツの保存用。JPEG 2000(8K (8192×6224) XYZまで)を使った非可逆およびロスレス圧縮。
- Application #5 (SMPTE ST 2067-50). アカデミーカラーエンコーディング(Academy Color Encoding System、通称”ACES” )を使った画像ファイルのアーカイブ用。
- Application #6 (SMPTE ST 2067-60). AVCコーデックを採用する放送局のためのUHDTV 番組ワークフロー。
- Application DPP (ProRes) (SMPTE RDD 59-1). UHD (3840×2160) HDRまでのProRes 圧縮技術を使った長編やシリーズなどのコンテンツのマスター用。
- Application ProRes (SMPTE RDD 45). 4K HDRまでのProResを利用した圧縮技術。
IMFコンポジションのデリバリーまたは保管方法は?
デリバリーやストレージ(保管)に関しては、一つまたは複数のIMFコンポジションがデリバリーの際にまとめられます。下図にあるように、1つのデリバリーは、複数のファイルから成り立っており、ネットワーク上や物理メディアに保管が可能です。
アセットマップにより、デリバリーに含まれている全てのファイルの居場所が確認でます。これらのファイルは1つまたは複数の論理的にまとめられたパッケージ(IMP)としてグループ分けされています。それぞれのパッケージ(IMP)は、例えば、発注内容に紐づけられています。IMP内のファイルリストはパッキングリスト (PKL)にリストアップされています。
IMFに適しない利用とは?
IMF は完成した映像音声コンテンツのマスターに適応するようにデザインされているため、以下のような利用には適していません。
- 制作途中の映像音声コンテンツ:コンテンツの一部が欠けていたり、最終カットでないなどの完成バージョンではないコンテンツ。但し、IMFマスターはOTIOなどのプレイリストか容易に作成することが可能。
- エンドユーザーの視聴環境:言語の設定、追加のインタラクティブコンテンツ、配給チャンネルに特有のメタデータなど、エンドユーザー視聴のための環境。但し、IMFは共通のメタデータなどの確立された環境下では十分に機能します。